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2018年3月

2018年3月29日 (木)

『大阪弁ちゃらんぽらん』「てんか」を読んで その3

「そうえ」「お休みやしたらどうえ」
の大宮人風ゆかしさに対し、
「そやそや」「何や、どないしたんや」
の下賤なはしたなさ。はしたないくせに向う意気は強くない。(p.223)


ことばが汚いかどうかについては興味がない。
それを汚いと思うのは、発している人の言い方が問題だからと思っている。

だから、「そやそや」という上品な人もいれば、「そうえ」という下品な人もいるはず。
それでも、後者が思い浮かびにくいのは、やはりステレオタイプとなっているからかもしれない。

演説中に「そうだッ」なら雰囲気が盛りあがり、弁士の舌は熱を帯びるのに対し、「そやそや」だと腰摧け甚だしく、ひやかしているように(p.223)という旨が書かれている。

これも掛け声を発する人次第だろう。ただし、後者の方が前者より技術が必要。
どっと笑いが起こって、盛りあがるということも場合によってはありうる。

丸くおさめてワンクッション入れるという効果は期待できる。
勢いのまま乗せてしまい暴走させるよりは、頭を冷静にさせる効果があるといえる。

田辺さんの小説の主人公は大阪弁。読者の関西出身の女性から、主人に読ませようとしたら「男が女みたいなコトバを使って、読むに堪えない」と主人が拒否したという件がある。(p.224)

大阪弁への偏見にあふれた時代なら、そういう感覚も否めない。
80年代以前の偏見は、今の比ではなかったからだ。

私は小説をほとんど読まないので、最近そういう実感はないが、田辺さんによると「東京弁の小説を読んでいて、老婦人の使うコトバが、男か女か分らなくて、味気ない思いをする(p.224)」とある。

これは男女差がないというわけではなく、若い男と女なら区別があるのに、中年老年夫人は「そうかい」「いやだねえ」「行くのかい」「いけないよ」などの色けのない、男っぽい語尾なんだと。(p.224)

これに対し、大阪弁では「僕、知らんわ」「あいつ、こんなこと、言いよんねん」「あいつには黙って行こな」「オレ、言いたいねん」は、「僕・オレ・あいつ」で男だと分かるという。(pp.224-225)

これは完全には首肯しがたい。例えば「知らんわ」の「わ」が「わあ」となるのは、私の直感では女性の方が多い。
一方で、「黙って行こな」は、長短を問わず若干女性っぽい。「あいつ」があってもそうである。

これは個人差があるが、「黙って行こ」「黙って行こうや」の方が男っぽい。
ただ、性差を越えてどちらも使う表現なので、線引きは難しい。

「言いよんねん」は現代ではどの程度使用語彙なのか分からないが、私は「言うてんで」になり、「よん」が男っぽくない。
ただ、確かに「ねん」には男女差がない。今となっては、古めかしさはあると思うが。

語尾の性差がないという点についてはあると思うんだが、そもそも大阪弁は直接話法で成り立ってるので、話し言葉では発する時の声質の模写によって男か女か分かるという利点がある。




「そやそや」のアクセントは、HLHL。
「そや」は、HL。「そうや」は、HLL。「そうだ」は、HLL。

「なんや」は、LHL。
「どないしたんや」は、HHH HLLL。


「そうえ」「お休みやしたらどうえ」は内省がきかないが、勝手に思ってる京都弁風に言えば、「そうえ」は、LLH。「お休みやしたらどうえ」は、LLLLHLLL LLH。

「僕」は、LH。子どもを呼ぶ時なら、HL。
「オレ」は、LH~HH。「あいつ」は、LLH。

「僕、知らんわ」は、LH HHHL。

「あいつ、こんなこと、言いよんねん」は、LLH HHHHL HHLLLL。
「言うてんで」は、HHHHL。

「あいつには黙って行こな」は、LLLHL LHLL HHH
「黙って行こ」は、LHLL HH。「黙って行こうや」は、LHLL HHLL。

「オレ、言いたいねん」は、LH(~HH) HHLLLL。



その4につづく




2018年3月 7日 (水)

『大阪弁ちゃらんぽらん』「てんか」を読んで その2

大阪弁にも独特の敬語はあるのだが、昭和も十年代前半にはいると、死語になっている。(p.221)


傾聴に値する。この辺りは近代上方語に詳しくないと分からないこと。
生のことばは、生のことばを知っている人に耳を傾ける必要がある。

研究者はそれがどの程度妥当か、どういう変化か、どういう規則かを追う。
しかし、元の言葉がなければ何もできない。

「だす」「ごわんな」「ごわへん」「ござります」(p.222)は昭和の子どもは使っていないと。
旧幕のコトバとまで言われるほど古めかしいようである。

「だす」は、「わてががんのすけだんねん」と太平シローさんが真似していた時の印象が強い。
ひょうきん族が80年代後半。その頃の懐かしネタなんで、当然古い。

「ござります」は、花菱アチャコさんの「めちゃくちゃでござりまするがな」。
エンタツアチャコをリアルタイムで知るわけもなく、誰かが真似していた記憶しか。

「ごわんな」「ごわへん」にいたっては、理解語彙ですらない。
何も思いつかないほど知らないが、おそらく基本形は「ごわす」。


ついでながら、この話が出てきたところに、子供向けの本が挙げられている。
キンダーブック、講談社の絵本、少年倶楽部、少女倶楽部、セウガク一年生(p.222)。

もちろん、どれも知らない。人智のすすんだ昭和の子供が読むものであるらしい。
なるほど、そういう視点があったか。学界に閉じこもっていると見えなくなることがあるなあ。



「だす」のアクセントは、LH。
「だんねん」は、LHLL。

「わて」は、LH。「わてが」は、LLH。
「がんのすけ」は、LLLLH。
「がんのすけだんねん」は、LLLLLLHLL。

「ござります」は、HHHHH。
「めちゃくちゃ」は、LLLH。「めちゃくちゃで」は、LLLLH。
「ござりまする」は、HHHHHH。
「ござりまするがな」は、HHHHHHLL。

「ごわんな」「ごわへん」は、脳内にない語彙だから推測だが、仮に「ごわへん」がLHLLなら、「ごわんな」はLLLHかも。
おそらく基本形は「ごわす」なんだが、LLHよりはHHHかも。
そう仮定すると、「ごわんな」はHHHHで、「ごわへん」はHHHLかも。


その3につづく





2018年3月 1日 (木)

『大阪弁ちゃらんぽらん』「てんか」を読んで その1

「てんか」pp.220-231

本題に入る前の前置きの部分がなんとも微笑ましい気分になったので、まずはそこから。
大阪弁話者あるいは知る者ならではなのかもしれない。


私は子供のころに、祝儀・不祝儀を問わず、包紙の裏に書かれる金額の「一金拾圓也」「一金五圓也」などの「也」の字を「や」とよんでいた。
漢字を崩してあるので平仮名の「や」にみえるのだ。(p.220)


ブログでは、「~や」をたまに使うが、書類や論文では書くことはない。
大阪方言である以前に口語的であるからだ。

というか、書き言葉は共通語が基本なんで、方言だと居心地が悪い。
規範教育としては正しいんだが、その反動でこういう場ではたまに大阪弁をまじえる。


当時の昭和十年代前半の小学校では標準語が敬語になっていて、教師には「そうです」「ちがいます」などという言葉を使わなければいけない。子供たちに対して標準語教育は徹底的におこなわれていたのだ。
その結果、大阪弁は、「ハレ」と「ケ」でいえば、「ケ」中の「ケ」であり、下品なものと貶められていたのだ。(p.221)


80年代漫才ブーム以前は、今とは非にならないぐらい大阪弁は下品で野卑でとろくもっちゃりした方言だというイメージが流布していた。東京で大阪弁を撒き散らすなという勢いで。

今でも、大阪弁は嫌いというのは、たまに耳にする。
飲み屋で仲良くなったなじみの客でも、そういうことを言うことはある。

私は別という扱いだが、生理的に嫌いなのはどうにもならない。
そりゃそうやろう。逆も真なりであるから。

老年層だけでなく、中年層が飯を食いながら大阪弁の悪口を言ってるのも聞いたことがある。
その話を聞きながら、大阪弁で注文したら、たちまち話は止んだのだが。

領収書に「10円や」と文字で書いてあったら、私でもさすがに笑ってしまう。
だからこそ、冒頭部分が微笑ましく感じたのである。

それ以前に、今の時代に10円で領収書はもらわないから、余計に。



「10円」のアクセントは、HHLL。
「10」は、LH。

「5円」は、HLL。
「5」は「ゴー」とのばすので、HH。



その2につづく。






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