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2016年6月18日 (土)

『大阪弁ちゃらんぽらん』「けったいな」を読んで その1

「けったいな」pp.63-73

まずは、原文をそのまま引用する(pp.63-64)


 けったいな、という語ほど、大阪人が頻発するものはないであろう。
 私もよく、かくものの中に使う。
 而して、この宛字がむつかしい。私が好きなのは、
「怪ッ態な」
 という宛字であるが、新聞社ならびに出版社には篤学の士多く、この宛字のいんちきをすぐ看破して、ただちに朱筆をとって、
「希代な」
 と書き改め、それにわざわざルビを振って下さるのである。
 ところが、私は「希代な」ではその感じが出なくていやなのである。いかに私の無学・雑駁たる神経が露呈しようとも、やはり「怪ッ態な」という字の方が、感じを伝えている気がして好きなのだ。「けったいな」お世話、というところ。
 尤も、そう改められる方が正しいのであって、「広辞苑」をひもとくと、
「希代の促音化である」
 と書かれ、「大言海」にも、
「希代の転。京畿にては、キをケといふ」
 とあるから、希代の方が由緒正しい、字遣いであるのだ。



篤学の士や広辞苑というのがいかにあてにならないかを示した、まさにけったいな話である。[注]

希代(キタイ)がケッタイに音変化するためには、2つの要因が必要である。1つはキ>ケという母音の変化、もう1つは促音化。後者の促音化にはそれほど抵抗はないが、前者に抵抗がある。

例えば、「けつねうろん」なる例があるが、これを実際に使う大阪人の範囲は限られている。よって、多数派ではない。これ以外にキ>ケという例が思いつかない。

「木」は「キー」で「ケー」とは言わない。「気楽」を「ケラク」と言うこともなく、「希少」を「ケショー」と言うこともない。あえて言えば、「希有」の「ケウ」があるが、これは京阪方言の影響ではなく、呉音だからである。

また、「けったいな」は「希代」による珍しさではなく、むしろ「奇態」の方が意味が近い。「希代の○○」は、珍しいものに焦点を当てて光らせている感があるが、「けったいな○○」はそういう意味ではなく、変なものに使う表現である。意味の派生関係としても、「希代>けったい」には疑義を挟まざるを得ない。

で、私が好きな辞典類である、大辞林や日国をひもとくと「卦体」と示されている。ただし、大辞林には「希代の転ともいう」と示されている。

現時点では決定打がないのだが、「希代>けったい」は素直に首肯するわけにはいかない。ただ、歴史に縛られて現代語の意味とかい離した表記を用いるのはいただけない。

むしろ、田辺聖子さんの「怪ッ態な」は無学でも何でもなく、現代の大阪方言を忠実に表現しようとする点で篤学の士より学があると言えるだろう。








[注] 広辞苑や大言海の記述については、現在は変わっているかもしれないが、その点はまだ確認していない。いずれ確認しておく。

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