2018年12月 9日 (日)

『大阪弁おもしろ草子』「よういわんわ」を読んで その4

「ようせんわ」「よういわんや」を共通語に訳しにくい(p.16)というのは、同感である。/div>
この「よう」は、古文の「え~ぬ(打消)」から来ている。


「言えない」と「よう言わん」とはニュアンスが違うと私は思う。「よう言わん」を標準語に訳すると、
「とてもそこまでつっこんで言うことはできない、私の立場、私の才徳、私の器量ではそれほど私の手にあまることで、私では、なし能わぬことである」
という意味があるから、これをどうしても標準語にするとなると
「とっても言えないわ」
とでも付加しないといけなくなる。(p.17)


かなり丁寧な翻訳であると思うが、場面次第だろう。
私なら「とてもじゃないけど言えない」と付加するが、「とてもじゃないけど」は多義である。

恥ずかしいからもあれば、圧力があるからもある。くだらなすぎてもあれば、率直に言うのは失礼だからもある。
もう少し想像できれば、もっとあるだろう。

さて、大阪弁で不可能を表す表現には、「よう言わん」と「言われへん」がある。
「~できない」を「よう~ん」あるいは「~へん」で言うということである。

かつては、「よう~ん」が能力不可能、「~へん」が状況不可能という区別があった。
ただ、私の内省では、後者は両方の意味で使える。

疲れてものが言えない時には「よう言わん」となるが、言う場が与えられなかったときには「よう言わん」は使えない。
それに対して、「言われへん」はどちらの場面でも使える。

ただ、質の差は感じており、「よう言わん」の方が、深刻な感じがする。
「言われへん」より「よう言わん」の方が、よっぽど言えないことがあるんやなと感じる。

ただ、「よう~ぬ」は断言しているようで、そうではない。
このあたりも以下の引用部に同感できる。


この、「よう」というのをつけると、言葉のあたりも柔かくなるので、聞く人の耳にも障りがないように思われるのだが、どうであろうか。言えないわ、できないわ、というキッパリした断定とはちがって、
「よう言わんわ」「ようせんわ」
というと、アトをひく感じで、
「何でやいうたら……」
とか、
「そやかて(ビコーズ)……」
とか、その理由をつづけたくなる。(p.18)


「言えまへん」(p.18)は私は使わず、「言えません」と共通語化した。
私の世代で「言えまへん」は、すでに古くてベタな大阪弁と感じる。

断言する時には、「言えません」となる。
ただし、それはあいそもこいそもない。

だからといって、若干柔らかめにするために「よう」を使った「よう言えまへん」は、「よう言えません」では使えない。
「よう言えません」だと、大阪弁と共通語の混種語となってしまい、かなりの違和感がある。

余計なことを付け足す話し方というのは、大阪弁の特徴の一つであろう。
これが要らんことであるかどうかは、話し手の力量によるところが大きい。



「言う」のアクセントは、HH。
「言わない」は、HHLL。
「言わん」は、HHH。「言わへん」は、HLLL。
「よう言わん」は、HH HHH。「よう言わんわ」は、HH HHHL。

「言われへん」は、HHLLL。
「言えません」は、HHHHH。「言えまへん」は、HHHHH。

「する」は、HH。
「しない」は、HLL。「せん」は、HH。
「ようせん」は、HH HH。「ようせんわ」は、HH HHL。

「そやかて(せやかて)」は、HLLL。

「要る」は、HH。
「要らん」は、HHH。「要らんこと」は、HHH HL。



この章終わり。



2018年11月 2日 (金)

『大阪弁おもしろ草子』「よういわんわ」を読んで その3

「去ぬ(いぬ)」という古語は大阪では日常次元で使っているので、古語とは思えない(p.10)とあるが、私は既に古語のように感じている。
聞いたことがないとは言わないが、私の世代ではないと感じている。

「去のか? ぼちぼち」
「うん」(p.11)

「去ぬ」は若い人たちも使う(p.10)とあるが、少なくとも私は使わない。
田辺さんにとっての若い人たちに、私は該当しないようである。

田辺さんが昭和20年代に卸問屋の事務員をなさっていた頃の会話として、以下の例が挙げられている。
この頃の若い人たちは、すでに70代で私の親の世代となる。

外回りの販売員が帰ってきて、
「今日は黒犬のケツや。どこも『去ね去ね!』いいよる」
とクサったりしていた。去ぬ、を命令形でいうと去ね、であるが、景気が悪くて売り足が落ちると、小売屋も注文どころではなく、問屋の若い衆を見ると「去ね去ね」と追い返すのである。(p.11)

学生にはナ行変格活用の話をする時に、「死ぬ、去ぬ、往ぬ(いぬ)」の例を挙げる。
共通語では死ぬ以外は死語に近く、学生世代では明らかな死語である。

だから、とっさに活用形が出てこない学生がいる。
ただ、これは内省できなくても規則が分かっていれば、機械的に出てくるはずなんだが。

「黒犬のケツ」は、犬のケツにはしっぽが生えていることを想像すればよい。
黒い犬のしっぽは黒いから、白くない。だから、尾も白くない(=面白くない)ということ。

白犬は尾も白いの反対語である。
私の姉は便秘ですというくだらない話と比べて、どっちがおもろいのだろうか。



「去ぬ」のアクセントは、HH。
「去ね」は、HL。

「ぼちぼち」は、LLHL。

「黒犬」は、LLLH。「白犬」も、LLLH。「黒犬の」は、LLLLH。
「ケツ」は、HL。

「おもしろい」は、HHHLL。
「おもしろくない」は、HHHHL LH。
「おもろい」は、HHLL。
「おもろない」は、HHHLL。





その2につづく。






2018年10月22日 (月)

『大阪弁おもしろ草子』「よういわんわ」を読んで その2

「~わいな」は、私にとっては使用語彙ではない。
かなり古めかしく感じるか、南の方やなと感じるか。

「~わい」ですらほとんど使わないので、「わいな」はなおさら。
私が「行くワイ」というと、むしろエセ大阪弁のようになってしまう。

もちろんアクセントは大阪弁で言えるが、しっくりこない。
終助詞「わ」なら使うが、終助詞「わい」は、私の言葉にはなじまない。


死語になると、古典とのつながりというか臍の緒が断たれてしまうので、まことに残念であるが、しかし言葉は生きものだから、その変貌をおしとどめるすべはない。(p.8)


若い世代はたくさんの古語を葬り、たくさんの新語を作る。
今の若い人はことばを知らないという人もいるが、若者から見れば年寄りはことばを知らないと感じる。

この点は目くそ鼻くそ。古きことばを子々孫々まで残すなんてのは絵空事である。
まして、伝統芸能があまり好きじゃない私にとっては、なおさら。

「夜さり」という枕草子にも出てくる表現も、私の使用語彙ではない。
夜や晩のことを指すが、私の中では古典の世界で、昔の大阪弁とも感じなくなっている。

ただ、こういった表現については、20歳以降大阪に住んでないことも関わってる気がする。
他の地方に行って日常的に大阪弁を聞く機会は減っており、年配層の大阪弁はなおさら聞く機会に恵まれない。

だからといって、住み続けていたら使っていたかと言われたら、答えは否だろう。
その年齢に応じた感覚に合わなければ、使わなくなるので。

よって、今の私の言葉も若い世代に引き継がれないことに対する感慨は全くない。
そんなもんやろうと達観しているんで。



「行くワイ」のアクセントは、HHLL。
「行くわいな」は、HHHLL。

「夜さり」は、音声言語として聞いたことがないが、発音するならHHHか。
LLHになるかもしれないが、起伏型では発音しないと思う。


その3につづく。



2018年9月10日 (月)

『大阪弁おもしろ草子』「よういわんわ」を読んで その1

「よういわんわ ―古語について」pp.7-22

過疎ブログ久しぶりの更新で、『大阪弁おもしろ草子』シリーズに突入。
こちらは更新頻度が遅いので、このシリーズは何年かかって完結するのか。

拙速に書評を書くよりはのんびり読めるのがいい。
研究論文から大阪弁を眺めるのではなく、時代背景を追いながら違いを捉えていけるのがいい。

仕事ではないので〆切にも追われず。
でも、巡り巡って、自身に役立つ知識を提供してもらっている。

では、本題に。


上方弁に古語が残っているというのはよくいわれるが、どんどん標準語、あるいは共通語に変わっていってしまい、典雅な古語が死語になっていくのは寂しい。(p.7)


「うたて」が東北にも残っている(p.7)という話が冒頭にあるが、これは当然のこと。
古語は周辺に残るというのが、言語地理学における所見の1つ。

地域の中心部から新しい言葉が生まれる。
それが周囲に広がった頃に、中心部はまた新しい言葉を生み出している。

だから、中心部は古語が残ることがないわけではないが、失われることの方が多い。
そういう意味では、寂しさを感じない生き方がその地の必然なのかもしれない。

ユニバーサルスタジオジャパンが大阪にできた時、東京をはじめ多くの地方は頭文字語の「USJ」。
一方で、近畿一円は「ユニバ」とちゃんと日本語化させ、アクセントは「マクド」と同じでLHL。

昔なら周囲がユニバに浸食されていくものなのだが、今は東京中心なのでUSJが全国に広がる。
発信地が2か所の場合には、より中心である方が全国への影響力が高いことが分かる。

よって、大阪弁に共通語の流入は避けられない状況だが、その割には維持している表現はそれなりにあるし、今だ新語を発信しようとしている姿勢がいい。そして、生み出し続けることに疲れてたまに共通語に頼るというのもちょうどいい。

東京に方言が流入した場合は、大抵の場合用法を簡略化する。
群馬・長野や北九州の「あーね」や近畿の「それな」などはそう感じる。

「あーね」は若者言葉としては軽い相槌程度でしか使われないが、もともとは納得、理解、同意(それぞれ強弱の程度あり)、無関心といった多様な用法があるが、共通語化されるとその多様性は失われる。

流入して新たな意味が加えられる場合もあるが、「あーね」には今のところ見られない。
だから、理解や同意を示す時に、「それな」という異なる方言語形を用いている。

失っていく言葉もあれば、他の地域で残っている言葉もある。
そして、大阪弁は今なお新語を発信する気概を持っている。

それが典雅かどうかは抜きにして。





「うたて」のアクセントは、HHH。

「ユニバーサル」は、LLHLLL。
「スタジオ」は、HHHH。
「ジャパン」は、LHL。
「ユニバーサルスタジオ」は、LLHHHH HLLL。
「ユニバーサルスタジオジャパン」は、LLHHHH HHHH HLL~LLHHHH HLLL LHL。

「ユニバ」は、LHL。
「マクド」はLHL。

「あーね」は、理解語彙としてHHH。
「それな」は、HHH。




その2につづく。



Pb280151_3




2018年8月 5日 (日)

『大阪弁ちゃらんぽらん』「あんだらめ」を読んで 補遺

ちゃらんぽらんを終えて、次に進もうと思っていたが、考え直して違うなあと気づいたところを修正したい。
「あんだら」と「あほんだら」は、そもそも違うんじゃないかと考えを改めた。

久しぶりに『全国アホ・バカ分布考』を真面目に読み直している。
この本は学生に読んでもらいたい良書だと思っている。

さて、「ダラ」は鳥取・島根あたりに残るアホ相当の古い方言。
「あほんだら」は「アホ」に「ダラ」がついた形である。

しかし、それより新しい語形として、岡山の「アンゴウ」がある。
この新古の関係をふまえて、「アンゴウ」に「ダラ」がついて「アンゴウダラ>アンダラ」が指摘されている。(同署pp.335-366)

納得。あほんだらのホの脱落より、新旧の関係、通時的変化がしっくりくる。
その3で書いた「『大辞林』を見てると、「あの道楽(ドラ)」の縮約形」説や牧村史陽による「阿呆太郎?」説はないなと。

この手の語彙もちゃんと考えないとという反省をふまえての補遺。
そして、アホンダラ教の教祖、帯谷孝史(吉本新喜劇)ネタを書いてないという反省をふまえての補遺。

そして、「あんだら」「あほんだら」のアクセントを書き忘れるというどうしようもないミスに対する反省をふまえての補遺。


「あんだら」のアクセントは、LLHL。
「あほんだら」は、LLLHL。
「あほ」は、LH。




2018年7月 8日 (日)

『大阪弁ちゃらんぽらん』「てんか」を読んで その7

「命まで賭けた女がこれかいな」の「かいな」は感嘆。
「ほんまかいな」の「かいな」は疑問。(p.228)

終助詞の機能というのは、多種多様。
といっても、無限に広がるわけではないが。

「かいな」は私も使うが、「わいな」は使わない。
「知っとるわい」の「わい」というのもほとんど使わない。

「てんか」は使わなくはないが、私の中での頻度は減ったように感じる。
「黙っててんか」という相手が周りにいないからかもしれない。

命令というより依頼なんだが、ぞんざいでも「黙っとけ>黙っといて」ですませる。
もっと柔らかくなら、「黙ってくれへんか」。

「てんか」はやや強めの命令、かつベタな大阪弁なので、よそいきの大阪弁としては使いにくい。
この最終章では、「てんか」を大阪弁の代表にしてんかとしめているが、それについては異存はない。




「命」のアクセントは、HLL。「命まで」は、HLLLL。
「賭けた」は、LHL。
「女」は、HLL。「女が」は、HLLL
「これ」は、HH。「これかいな」は、HHHLL。

「ほんま」は、LLH。「ほんまかいな」はLLLHLL。

「知っとる」は、LLHL。「知っとるわい」は、LLHLLL。

「黙る」は、LLH。「黙って(命令)」は、LLLH。「黙って(連用中止)」は、LHLL。
「黙っててんか」は、LLLLHHH。
「黙っとけ」は、LLLHL。「黙っといて」は、LLLHHH。
「黙っててくれへんか」は、LLLLL HLLLL。

「してんか」は、HHHH。



この章終わり。
そして、『大阪弁ちゃらんぽらん』シリーズ、終わり。

次回より、同じく田辺聖子さんの『大阪弁おもしろ草子』シリーズとなります。



2018年6月19日 (火)

『大阪弁ちゃらんぽらん』「てんか」を読んで その6

「小春ゥ。死んだらあかんでェ」(p.226)

「でぇ」は古くさいようで古くさくない。
使ってないようで、使ってる。

聞くと古いなあとつい思うのだが、知らぬ間に使っている文末詞の1つ。
いわゆる強調なんだが、「ぞ」は書き言葉的で、「ぜ」はキザすぎる。

私はボギーではないから、キザでいられたらとは思わない。
「○○だぜ」というのは、大阪弁でないという以上に、いまだに気持ち悪さを感じる。

「いきり」ではないが、「かっこつけ」という感じ。
もちろん、もともと方言形として使う人を非難しているわけではない。

嫌なものは嫌。ピーマンやニンジンと同じような感じ。
私はどっちも好きだが。

牧村説では「ぞえ>で」なんだと(p.226)
藤田まさとさんの作詞で「情けないぞえ、道中しぐれ」があることからも、まんざら間違いではなさそうだ。

「でぇ」はいかにも大阪弁って感じだが、「て」は共通語でも広がっている。
ただ、共通語では「って」であって、「て」ではない。

いわゆる引用の「と」に近いんだが、近畿方言圏以外は促音が入るのが普通。
促音なしでは言えない人が多い。そこに大きな違いがある。

「分かってるでぇ」だと、みなまで言うな、私はあんたの言うてることよう分かってるぞという感じ。
「分かってるて」だと、それぐらい理解してるから大丈夫という感じ。

確認度合いの軽重の違いか。「て」だと、押しつけがましさはない。
示威や恫喝(p.227)のニュアンスも全くなくなる。

大阪弁で「って」を言わないわけではない。ただ、「って」の方が「て」より強調感がややある。
あるいは共通語の逆輸入か。私は両方使うのだが、違いを上手く内省できない。

共通語の「ぞ」は大阪弁では「で」、「よ」は「わ」、「ね」は「な」なんで、「さ」が「て」になるのか。
「さ」は「ぜ」よりかっこつけなので、どうも受け付けない。





「小春ゥ」のアクセントは、HHHH。
「死んだら」は、HLLL。「死ぬ」は、HH。
「あかんでェ」は、HHHHH。「あかん」は、HHH。

「情けない」は、HHHLL。
「情けないぞえ」は、HHHLLLL。
「情けないでェ」は、HHHLLLL。強調形なら、HHHLLHH。「情けないで」は、HHHLLL。
「情けないぜ」は、HHHLLL。

「分かってる」は、HHHHH。
「分かってるでェ」は、HHHHHHH。「分かってるで」は、HHHHHL。
「分かってるって」は、HHHHHHL。「分かってるってー」は、HHHHHHLL。
「分かってるて」は、HHHHHL。「分かってるてー」は、HHHHHLL。

「分かってるぞ」は、HHHHHL。「分かってるぞー」は、HHHHHLL。
「分かってるよ」は、HHHHHL。「分かってるよー」は、HHHHHLL。
「分かってるわ」は、HHHHHL。「分かってるわー」は、HHHHHHL。
「分かってるね」は、HHHHHH。「分かってるねー」は、HHHHHHL。
「分かってるな」は、HHHHHH。「分かってるなあ」は、HHHHHHL
「分かってるさ」は、HHHHHL。

ついでに、「食べてる」は、LLLH。「食べとる」は、LLHL。
「食べれるぞ」は、LLLHL。「食べとるぞ」は、LLHLL。「食べてるぞー」は、LLLHLL。「食べとるぞ」は、LLHLLL。
「食べてるでェ」は、LLLHLL。「食べとるでェ」は、LLHLLL。「食べてるで」は、LLLHL。「食べとるで」は、LLHLL。
「食べてるって」は、LLLHLL。「食べとるって」は、LLHLLL。「食べてるってー」は、LLLHLLL。「食べとるってー」は、LLHLLLL。
「食べてるて」は、LLLHL。「食べとるて」は、LLHLL。「食べてるてー」は、LLLHLL。「食べとるて」は、LLHLLL。
「食べてるぞ」は、LLLHL。「食べとるぞ」は、LLHLL。「食べてるぞー」は、LLLHLL。「食べとるぞー」は、LLHLLL。
「食べてるよ」は、LLLHL。「食べとるよ」は、LLHLL。「食べてるよー」は、LLLHLL。「食べとるよー」は、LLHLLL。
「食べてるわ」は、LLLHL。「食べとるわ」は、LLHLL。「食べてるわー」は、LLLHLL。「食べとるわ」は、LLHLLL。
「食べてるね」は、LLLLH。「食べとるね」は、LLHLL.。「食べてるねー」は、LLLLHL。「食べとるね」は、LLHLL.L。
「食べてるな」は、LLLLH。「食べとるな」は、LLHLL。「食べてるなあ」は、LLLLHL。「食べとるな」は、LLHLLL。
「食べてるさ」は、LLLHL。「食べとるさ」は、LLHLL。





その7につづく





2018年5月 4日 (金)

『大阪弁ちゃらんぽらん』「てんか」を読んで その5

男「あいつ、女房(よめはん)居るねんで。知らんねんな」
女「知ってるわいな。知ってるけど、惚れたんやからしょうないやないかいな、ほっといてんか」(p.226)


その4で紹介した言い回しだが、この会話を共通語に訳せと言われると厄介である。
「よめはん」は、大阪弁では普通の言い方。自身の息子に嫁いだ女性の意味ではなく、自身に嫁いだ女性を指す。

「居るねんで」は「居んねんで」の方が、より自然である。「いるんだよ」が近いか。
「知らんねんな」は「知らないんですね」とでも訳しておく。この「な」は確認要求か。

「知ってるわいな」の「わいな」は強調だが、訳しにくい。「当然知ってます」としておく。
「しょうない」は「しようがない」。私は「しゃあない」だが、そこは置いとく。

「やない」は素直に「ではない>じゃない」。
「かいな」は難しい。「かい」は「か」なので、この文脈だと「ですか」となる。この文脈では感嘆は感じとれない。

「ほっといてんか」は「放っておいてもらえ(あるいは、くれ)ませんか」。
以上をふまえた直訳は以下の通りになる。


男「彼、妻がいるんですよ。知らないんですね。」
女「当然知っています。知っているのですが、惚れたのですからしようがないじゃないですか。放っておいてもらえませんか。」


素直な感覚として、共通語に訳すと、空々しい会話になってしまい、下衆の勘繰りという感じも薄まる。
そして、ほんまに放っといてやるほうがええかもしらんと思ってしまう。


今回は共通語に訳した文の大阪弁アクセントを。


「彼」のアクセントは、HL。
「妻」は、HL。「妻が」は、HLL。
「いる」は、HH。「いるんです」は、HHLLL。「いるんですよ」は、HHLLLL。(文末に強調型上昇調がかかることも)
「知る」は、HH。「知らない」は、HHLL。「知らないんですね」は、HHLLLLLL。(文末に強調型上昇調がかかることも)

「当然」は、HHHH。
「知っています」は、LLLHHH。

「知っている」は、LLLHH。
「知っているのですが」は、LLLHHHLLH。(文末に強調型上昇調がかかることも)
「惚れたのですから」は、HLLLLLLL。
「しょうがない」は、HHHHLH。「しようがないじゃ」は、HHHHLLL。
「ないですか」は、LHLLL。

「放る」は、HHH。「放って」は、HHHH。「放っておいて」は、HHHHHLL。
「もらえません」は、HHHHHH。「もらえませんか」は、HHHHHHH。
「放っておいてもらえませんか」は、HHHHHHHHHHHHHH。(文末に強調型上昇調がかかることも)


その6につづく。



2018年4月 2日 (月)

『大阪弁ちゃらんぽらん』「てんか」を読んで その4

尤も、下品な言葉になると、男性だけが使うものに「じゃ」とか「どォ」などというのがあり、
「お前、何じゃ。そんなことしてええ、思とんかッ!」(p.225)


男だけかどうかは、断言できない。本文では「いかに怖い姐さんでも「じゃ」は使わない」とあるが、疑わしい。
ただ、男勝りなのか男っぽくなのか、単にガラが悪いだけなのか、少数派ながらいないわけではないと思う。

「じゃ」は大阪市内より西に行けば行くほど増える。姫路あたりから「や」は「じゃ」になるので。
また、摂津方言より南だと、直感なんだが女性の「じゃ」は増えるかもしれない。

他に「どォ」の例として、ケンカ出入りの際の「撲ッ倒されッどォ」(p.255)が挙げられている。
これは少なくとも私は使わない。じゃりン子チエよりミナミの帝王の大阪弁っぽい。


男性専用語尾には、このほかに、「わい」がある。これは大阪の鉄火コトバで、むろん志操高雅な士君子は使わない。長屋のオバハンなんぞが、ナマケモノの亭主を早く仕事に出そうとして尻を叩く、そういうときの返事として牧村史陽氏の用例によれば、
「やかまし言はんかて、今いくわい」(「大阪方言辞典」)
などと用いる。(pp.225-226)


使わない私が志操高雅な士君子であることは言うまでもない。
私の世代だと「わい」は使わないような気がするが。

なお、「わいな」のように「な」がつけば女も使えるとのこと。(p.226)
「わいな」は聞いたことがあるかもしれないが、記憶がない。少なくとも同世代のことばではない。


男「あいつ、女房(よめはん)居るねんで。知らんねんな」
女「知ってるわいな。知ってるけど、惚れたんやからしょうないやないかいな、ほっといてんか」(p.226)


大阪弁の語尾満載である。




「お前、何じゃ。そんなことしてええ、思とんかッ!」

「お前」のアクセントは、LLH。「何じゃ」は、LLH。
「そんなことして」は、HHHHL HL。「ええ」は、LH。「おもとんか」は、HHHLL。


「撲ッ倒されッどォ」

「はったおされる」は、HHHHHHH。
「張る」は、HH。「倒す」は、HHH。
「はったおされっどー」は、HHHHHHHLL。


「やかまし言はんかて、今いくわい」

「やかまし」は、HHHL。
「言わん」は、「HHH」。「言う」は、HH。「言わんかて」は、HHHHL。
「今」は、LH。「行く」は、HH。「行くわい」は、HHLL。
「今いくわい」は、LLHHLL。


「あいつ、女房(よめはん)居るねんで。知らんねんな」

「あいつ」は、LLH。「よめはん」は、HHHH。「おる」は、HL。
「おるねんで」は、HLLLL(文末に強調上昇調があることも)。
「知らん」は、HHH。「知る」は、HH。
「知らんねんな」は、HHHLLH。


「知ってるわいな。知ってるけど、惚れたんやからしょうないやないかいな、ほっといてんか」

「知ってる」は、LLLH。「知ってるわいな」は、LLLHLLL。「知ってるけど」は、LLLHLL。
「惚れる」は、HHH。「惚れた」は、HLL。「惚れたんやから」は、HLLLLLL。
「しょうない」は、HHLL。「しょうないやないかいな」は、HHLLL LLHLL。
「ほっとく」は、HHHH。「ほっといてんか」は、HHHHHHH。



その5につづく。



2018年3月29日 (木)

『大阪弁ちゃらんぽらん』「てんか」を読んで その3

「そうえ」「お休みやしたらどうえ」
の大宮人風ゆかしさに対し、
「そやそや」「何や、どないしたんや」
の下賤なはしたなさ。はしたないくせに向う意気は強くない。(p.223)


ことばが汚いかどうかについては興味がない。
それを汚いと思うのは、発している人の言い方が問題だからと思っている。

だから、「そやそや」という上品な人もいれば、「そうえ」という下品な人もいるはず。
それでも、後者が思い浮かびにくいのは、やはりステレオタイプとなっているからかもしれない。

演説中に「そうだッ」なら雰囲気が盛りあがり、弁士の舌は熱を帯びるのに対し、「そやそや」だと腰摧け甚だしく、ひやかしているように(p.223)という旨が書かれている。

これも掛け声を発する人次第だろう。ただし、後者の方が前者より技術が必要。
どっと笑いが起こって、盛りあがるということも場合によってはありうる。

丸くおさめてワンクッション入れるという効果は期待できる。
勢いのまま乗せてしまい暴走させるよりは、頭を冷静にさせる効果があるといえる。

田辺さんの小説の主人公は大阪弁。読者の関西出身の女性から、主人に読ませようとしたら「男が女みたいなコトバを使って、読むに堪えない」と主人が拒否したという件がある。(p.224)

大阪弁への偏見にあふれた時代なら、そういう感覚も否めない。
80年代以前の偏見は、今の比ではなかったからだ。

私は小説をほとんど読まないので、最近そういう実感はないが、田辺さんによると「東京弁の小説を読んでいて、老婦人の使うコトバが、男か女か分らなくて、味気ない思いをする(p.224)」とある。

これは男女差がないというわけではなく、若い男と女なら区別があるのに、中年老年夫人は「そうかい」「いやだねえ」「行くのかい」「いけないよ」などの色けのない、男っぽい語尾なんだと。(p.224)

これに対し、大阪弁では「僕、知らんわ」「あいつ、こんなこと、言いよんねん」「あいつには黙って行こな」「オレ、言いたいねん」は、「僕・オレ・あいつ」で男だと分かるという。(pp.224-225)

これは完全には首肯しがたい。例えば「知らんわ」の「わ」が「わあ」となるのは、私の直感では女性の方が多い。
一方で、「黙って行こな」は、長短を問わず若干女性っぽい。「あいつ」があってもそうである。

これは個人差があるが、「黙って行こ」「黙って行こうや」の方が男っぽい。
ただ、性差を越えてどちらも使う表現なので、線引きは難しい。

「言いよんねん」は現代ではどの程度使用語彙なのか分からないが、私は「言うてんで」になり、「よん」が男っぽくない。
ただ、確かに「ねん」には男女差がない。今となっては、古めかしさはあると思うが。

語尾の性差がないという点についてはあると思うんだが、そもそも大阪弁は直接話法で成り立ってるので、話し言葉では発する時の声質の模写によって男か女か分かるという利点がある。




「そやそや」のアクセントは、HLHL。
「そや」は、HL。「そうや」は、HLL。「そうだ」は、HLL。

「なんや」は、LHL。
「どないしたんや」は、HHH HLLL。


「そうえ」「お休みやしたらどうえ」は内省がきかないが、勝手に思ってる京都弁風に言えば、「そうえ」は、LLH。「お休みやしたらどうえ」は、LLLLHLLL LLH。

「僕」は、LH。子どもを呼ぶ時なら、HL。
「オレ」は、LH~HH。「あいつ」は、LLH。

「僕、知らんわ」は、LH HHHL。

「あいつ、こんなこと、言いよんねん」は、LLH HHHHL HHLLLL。
「言うてんで」は、HHHHL。

「あいつには黙って行こな」は、LLLHL LHLL HHH
「黙って行こ」は、LHLL HH。「黙って行こうや」は、LHLL HHLL。

「オレ、言いたいねん」は、LH(~HH) HHLLLL。



その4につづく




«『大阪弁ちゃらんぽらん』「てんか」を読んで その2

フォト
無料ブログはココログ

人気ブログランキング

2018年12月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31