2017年3月30日 (木)

『大阪弁ちゃらんぽらん』「あもつき」を読んで その2

祖母は、外から買えると何々に金を使ったか、洟紙(はながみ)に、鉛筆をなめなめ、書いていたが、それがおかしかった。
「一、すこん 一、おかしん 一、まめさん 一、おまん 一、けつね」(p.157)

「すこん」は「酢こんぶ」、「おかしん」は「お菓子」、「まめさん」は「小さな塩豆」、「おまん」は「饅頭」、「けつね」は「きつねうどん」を指す。場面や文脈があれば、聞いて理解できる語彙だが、どれも使わない。

「まめさん」が「塩豆」を指すのは、私では容易に想像しにくい。
「けつねうろん」は河内なまりとあるが、「うどん」を「うろん」と言う以前に、私は「けつね」も使わない。

「シ」が「ヒ」になる、例えば「七(ヒチ)」「質屋(ヒチヤ)」は今でもそう言う時がある。
一方で、「キ」が「ケ」になるのは、おそらく使っていない。「ケ」で思いつくのは「けーへん」ぐらいか。

「来る」に打消しの「~へん」がついたら、「けーへん」と言う。「きーひん」は使わない。
よそ行きの大阪弁の時には、いわゆる新方言の「こーへん」を使うことがある。

「する」は「せーへん」。これを「しーひん」とは言わない。
ただ、「する」の場合は、「せぬ」なので「せ」で違和感がない。

「来る」は「来ぬ」だから、「けーへん」じゃなく「こーへん」が生じる。
しかし、これは「キ」が「ケ」ではない。だから、私の内省では「キ」が「ケ」になる語彙が思いつかない。


モチのことを祖母や曾祖母、掛人(かかりゅうど=居候)の老女などは「あも」といっていた。歯のぬけた老女達が「あもを沢山(ようけ)いただいて」などと笑い合う。(p.158)


この章のタイトル「あもつき」の「あも」がようやく登場。
私の脳内には全くなかった語彙で、これは聞いても容易に想像できない。

「あもつき」は「餅つき」のこと。
「正月きたら、あも搗いて……」という子守歌(p.160)があるそうだ。

さて、最後に近松の『関八州繋馬』に、以下の文言があるとのこと(p.161)。
「今宵はお寝間でしっぽりと、お二人のあもつき」

「もちつき」の意味だと分かりにくいが、こっちの例だと分かりやすい。
熊八中年[注]の「何となく、卑猥な語感でしたなあ」(p.160)も分からなくはない。




「はながみ」のアクセントはHHHH。
「すこん」はLHH~LLH。
「おかしん」はLHLL。「お菓子」はLHL。
「まめさん」はLHLL。「豆」はLH。
「おまん」はLHL。「饅頭」はHLLL。
「けつね」はLLH。「けつねうどん」はLLLHLL。

「あも」は、私の内省ではLH。
知らない語彙でも私のアクセントだとどうかということについて、これまで記してきたが、「あも」はゆらぐ。HHでもいいかもしれない。HLは違う気がする。
「あもつき」は、HHHL。「もちつき」がHHHLなんで、そこからの類推でそう言う。


追記
・京の御所ことばとして挙がっている例(p.158)
「お豆」LHL。
「おながもの」はうどんのこと。LLLLH。
「いともの」は素麺のこと。LLLH。LHLLだと「糸でできた製品」となる。
「おしわもの」は梅干しのこと。LLLLH。

・大阪弁で「うまくない」というのを「もみない」といい(p.159)
私は使わない。
「もみない」はLHLL。
「うまくない」は「LHL LH」
「うもない」はLH LH。「うもない」から類推するとLHLHだが、「もみない」はLHLLの方がしっくりくる。


[注]熊八中年 本文にしばしば登場する野卑で下ネタ好きな男性。







この章終わり。





2017年3月20日 (月)

『大阪弁ちゃらんぽらん』「あもつき」を読んで その1

「あもつき」pp.151-161

今回は食物の名称を考えよう(p.151)とあるので、そうする。
今回も古い言い方が多く、なじみがない言葉が多い。

「おかいさん(p.152)」については、以前にも書いたことがあるが、使わなくはない。
「おかゆさん」や「おかゆ」も使っているが、ぞんざいに言えばたぶんそう言っている。


なお、紀州では茶粥のことをおかいさんというとのこと。
派生というべきか、拡大用法というべきか。

「おみい(p.153)」は、これだけではさっぱり想像がつかない。
「おみみ>おみい」という変化なんだが、これでもさっぱり想像がつかない。

「浪速方言大番附」では「おみや」、「御所ことば」では「おみみ」、「日本国語大辞典」では「おみい(御味)」が掲載されている(p.154-155)ようだ。「omiya>omimi>omii」か、「omimi>omiya, omimi>omimi」という2つの枝分かれ変化か迷うところである。

全くもって蛇足になるが、「おみみ>おみい」は、「すいません」嫌いへの抗弁となる。
音韻的には子音となる鼻音の脱落なので。
「すいません」ならmの脱落、「すんません」ならiの脱落。
正しい日本語好きでも、音便まで批判するわけではないだろうと思いたい。
「すみません」代わりに「すいません」と言うと、「タバコか」みたいな返しがあると聞いたことがあるが、これは「済みません」と「吸いません」のアクセントが違うのでセンスがない。

「おせん(p.156)」が煎餅だということは分かるが、甘い煎餅だとは理解していなかった。
となると、私の内省ではなんちゃって理解語彙となる。

「おかき(p.156)」が塩煎餅というのだが、これも若干違和感がある。
私の内省では煎餅は平たく、おかきは棒状なので。

「エー、おせんにキャラメル、おかきにあられ……(p.156)」
昭和10年代のカツドウ小屋(映画館)で売り子さんがいう文言。

そうなると、前者が甘いもので、後者がしょっぱいものか。
なお、私の内省では「あられ」は小さい球状のものである。




「おかいさん」のアクセントは、LLLHH。
「おかゆさん」もLLLHH。「おかゆ」はLLH。

「おみい」はLHL。「おみみ」も「おみや」も同様にLHL。

「済みません」はLLLLH。「すんません」も「すいません」もLLLLH。
「すんまへん」は摂津弁じゃない気がする。「すいまへん」は私の内省ではあってもいいがかなり違和感がある。

「吸いません」はHHHHH。
共通語だと「すみません」も「吸いません」もLHHHLで同じなので、そういうネタになるのか。

「おせん」はLHL。「汚染」ならHHH。
「おかき」はLHL。「あられ」はHHH。



その2につづく。




2017年3月 8日 (水)

『大阪弁ちゃらんぽらん』「あんだらめ」を読んで その3

その1に「あんだらめ」は「あほんだらめ」の「ほ」の弱化と書いた。
ただ、『大辞林』を見てると、「あの道楽(ドラ)」の縮約形も考えられる。

「 -めには拳一つあてずほたえさせ/浄瑠璃・油地獄 中」
とあるので、割と古くから「あんだらめ」は使われているようだ。

また、「阿呆陀羅経」という滑稽話が江戸中期にあるので「あほ(ん)だら」が江戸時代にあったとも考えられる。
それだと、弱化説も否定できない。

共時的に考えれば「ほ」の弱化ですむが、通時的に考えるとどちらか特定しきれない。
その当時の弱化に関する文献資料でもあれば分かるのだが。



さて、p.146に罵詈讒謗の言葉として、「~くさる」「~さらす」「~けつかる」「~こます」が挙げられている。
例をもとに内省してみたい。

「なに吠たえくさる、このあま(p.146)」は理解できるが使わない。
「なにしくさってる」が基本用法だろうが、私の内省ではなじみがない。

「何さらしてけつかんねん(p.147)」は「~さらす」と「~けつかる」の2つが入ってる。
子どもの頃、「けつかる」という語彙が頭になかったので、「何言うてけつかんでんねん」と言っていた。


「出ていきさらせ」
と男は女にいい、女が荷物をまとめて出ようとすると、
「このドアホ、どこへいきさらす」
と引きとめてやらず、女はマゴマゴし、男はさらに
「何をボヤボヤしくさる、さっさとメシでもたきやがれ」
などどいうのである。(p.147)


さすが田辺聖子さん。展開が面白い。昭和の男と女って感じが際立ってる。
私はもはや平成人間なので、共感できても使うことはないだろう。

「いうてこましたった(p.147)」「どついてこました(p.148)」は私は聞いたことがない。
「~こます」は「いてこます」がすぐに思い浮かぶぐらい。

ただ、喧嘩に向かない私は、相手をいてこますことはできない。
この場合の「~こます」は「完膚なきまでやっつける(p.149)」があってる。

この「こます」は、「張り手をかます」の「かます」の音韻変化ではないだろうか。
暴力的に相手に仕掛けるという意味合いでなら、合っている。

「はったりをかます」の場合、暴力的ではない。
何か仕掛けてはいるが、だまして落とす方向に向かっている。

なので、「スケコマシ(p.149)」は、「かます>こます」が後部要素であろう。
前部要素は「好き>すけ」ではないかと考えている。

「すけべ」の「すけ」も「好き」から来ているので、そう考えることができるだろう。
「(女に)好きをかます」ことで、たらしこんでいるのではないかと思う。

この解釈が「すけこまし」の語源として適切かどうかは今後の検証が必要であるが、そんなにおかしいとは思っていない。




「吠たえくさる」のアクセントは、HHHHHH。
「しくさってる」は、HHHHHH。

「なに さらして けつかんねん」は、LH HHHH HLLLLL。
「け」の後に下がり目。
なので、「言うて けつかんねん」は、HHH HLLLLL。
「言うて けつ かんでんねん」は、HHH HL LLHLLL。

「出ていきさらせ」は、HHHHHHL。
「いきさらす」は、HHHHH。
終止形は高平、命令形は「ら」の後に下がり目。

「いてこます」は、HHHHH。
「張り手」はLLH、「はったり」はLLLH。
「かます」は、HHH。
「スケコマシ」は、LLLLH。

本文でふれてないが、「尻」はHL、「おいど(p.148)」はLHL。


この章、終わり。








2017年2月24日 (金)

『大阪弁ちゃらんぽらん』「あんだらめ」を読んで その2

「ドアホ」は「アホ」を卑しめ貶めた罵詈用語、侮蔑用語(p.143)である。
単純に強調とは言い切れず、元の意味のプラス要素を消し去ってしまうのが「ド」である。


「ドアホ」というと、「アホ」というコトバの持っているやわらかみは、全く失われる。「ド」というのは激越で下賤で、はなはだ品格のない言葉、かりにも教養と見識ある紳士淑女は使ってはならないとされている。(p.143)


私に品格や見識があるかは別にして、東京に来てからは使う頻度が減っている。
そのニュアンスが伝わらないから、せいぜい「アホか」ぐらいでとどめている。

「アホ」と「バカ」が大阪と東京では逆と言うが、都内で大阪弁の「アホ」は諦められつつある。
都内で大阪人の悪口はあっちこっちで聞くが、諦めの声もないわけではない。

一方で、大阪で東京弁の「バカ」はまだ受け入れられているとは思えない。
これは私も感覚的にそうであり、東京に住んでいてもまだ体が受け付けない。

ただ、今のところ、私に「バカ」と言ってくる人間は周りにいない。
だから、過ごしていけるのかもしれない。

「ド」がつく言葉はまだまだあり、「ドスベタ」「ドタフク」(p.143)が挙げられている。
これらは女性に対しての専用の侮蔑用語と言える。

さすがに女性に「すべた」も「お多福」も言わないので、これらは理解できるが使っていない。
どちらも醜い女を指すが、「すべた」はブサイク、売女、不良などに、「お多福」はふっくらした顔に言う。

「お多福」はかつては美人だったが、時代によって解釈が変わっている。
なお、「ドタフク」は「ド+オタフク→ドオタフク>ドタフク」と「オ」が融合した語形になっている。

「すべた」はスペイン語のespadaから来ているとのこと。カルタの零点札から派生した語なんだそうだ。
語源というものはあまり信用してないので、何とも言えない。「ずぼら」の変化形の気がするのだが。

「ド根性」は、もともと「根性が悪い」であって、「性根がある」「気骨稜々」ではなかった(p.144)とのこと。
我々世代は「ど根性ガエル」の印象が強いので、前者の意味では使わない。

「ドケチ」「ドスケベ」(p.144)は、何の抵抗もなく使える。
ただ、気のおけない相手でないと、あとあとめんどくさそうだが。

「愚妻」は「愚かな妻」ではなく、「愚かな夫の妻」なんだが、誤解されることが多い。
「ド嬶(どかか)」(p.144)などと言ってしまうと、さらなる誤解を生むかもしれない。

「おのれのドタマ、かち割ったろか」(p.144)は、ある意味定型句となっている。
「ド+アタマ→ドアタマ>ドタマ」といった、頭のどぎつい言い方。

私はこの定型句は使うことはない。
新喜劇で出てきたら笑えるが、実生活だと笑えない。

むやみに大きい体格のことを「ドンガラ」(p.144)と言うようだ。
これは知らない。「ドタマ」と同様にただただ悪い意味で使っているようだ。

「カラ」は「柄」で人を指し、図体や体格も指す。
「やから」「はらから」の「から」と同じ語基である。

最近テレビで悪い人のことを「やから」と言ってるが、アクセントがLHLが多い。
私はHHHなんだが。またテレビで言われている用法は私は使わない。

私は連体修飾語がなければ使えないので、単独である人を指して「やから」とは言えない。
3拍侮蔑語はLHLになりやすいので、それに準じたアクセントになったんだろうか。

なお、これらの「ド」は「超ド級」の「ド」とは異なる。
「超弩級」はイギリスの戦艦「ドレッドノート(dreadnought)」の頭文字「ド」への当て字。

だから意味は「どでかい」に近くなるが、大阪弁の「ド」とは関係ない。




「ドアホ」のアクセントはHLL。
「アホ」はLH、「バカ」はHL。

「ドスベタ」はLHLL、「ドタフク」はLHLL。
「スベタ」はLHL、「おたふく」はLHLL。

「ド根性」はLHLLL、「根性」はLHLL。

「愚妻」はLLH、「ド嬶」はLHL。

「ドケチ」はLHL、「ドスケベ」はLLHL。
「ケチ」はLH、「スケベ」はLHL。

「ドタマ」はLHL、「頭」はHLL。

「ドンガラ」はLLLH。
「やから」はHHH、「はらから」はHHHH。

「超ド級」はHHHLL。
「どでかい」はLLHH。



その3につづく。









2017年2月 4日 (土)

『大阪弁ちゃらんぽらん』「あんだらめ」を読んで その1

「あんだらめ」pp.140-150

これは大阪弁感覚があればすぐに分かるが、そうでなければピンと来ないかも。
「あ」と「ん」の間に「ほ」を入れればわかるかと。

ぞんざいに言った時に、「ほ」が弱化して脱落してしまった言い方。
これは大阪弁だから落ちるというわけではなく、個人差がある。

ということで、この章は罵詈讒謗をあらわすことばの特集となる。
こういうのは学術ものではあまり書かれてないんで、こういうブログの方が気楽。


ケンカの時に相手を罵る語としては、
「おんどれ」「われ」
「ガキ」
「ド畜生」
などあり、相手が若いときは
「小便タレ」
などともいう。 (p.142)


「おんどれ」「われ」は確かに大阪弁だが、摂津弁ではないような気がする。
また、ガラが悪い、喧嘩が好きだという性格でないと、使わないと思う。

「おんどれ」は「おのれ>おんどれ」という変化か。
「の>ん」はよくある変化だが、そこに「ど」が入るのが面白い。

となると「おのれ>おどれ>おんどれ」かもしれない。「の>ど」という変化については可能性としてはあるけど、他に類例を見つけないとそうにちがいないと断言することはできない。

「われ」は自分自身のことを指すわけでなく、相手のことを指す。
「自分」「われ」を2人称として使う大阪弁話者は、一定数いるのは確か。

「われ、なんて名前や」はあまりにガラが悪いが、「自分、なんて名前?」というのは日常会話として使っている人がいる。
私はそう言わないが、他人が使っていても何の違和感もない。

「ド畜生」は想像はできるのだが、実際に聞いたことはない。
まあ、そういう現場にいたら、私はのびるどころか死んでしまいそうなんで。

さて、最後の「小便タレ」、これは「しょんべんたれ」と言う。
これは、今の私の年齢ぐらいで青二才相手に使うのが、ちょうどいいのかも。

だからといって、学生には使えないが。よほど気のおけない学生であっても。
まあ、気のおけないのんは、こんなセリフを吐かせへんやろうけど。

ちなみに、「しょんべんたれ」は男相手に使う。女相手なら「しょんべんくさい」。
なぜなのかは分からないがそういう区別はある。

実際に小便の臭いがするわけではない。
まだおねしょしてるぐらいの小さい子を誇張して使っている。

「小便臭い」女の例として、「あまりにも若くてまだ色気がたらん憾みがあり(p.143)」と書かれていた。
例えば誰というのは、さすがに控えておく。

このニュアンスが東京で伝わらないのは言うまでもない。
だから、私が使う機会はなさそうである。

さすがに職場では言えないし、今どきよっぽど気のおけない関係でもネタでしか言えない。
これを真顔で言える時代でないことは、一応理解している。

だから、「小便くさい」は使わない。
「小便タレ」と言ってやりたい奴は確実にいるが、今のところ大人のたしなみを守っている。





「おんどれ」のアクセントはLLLH。
「われ」はLH。HLでは迫力もくそもない。
「ガキ」もLH。

ついでながら蘊蓄を垂れると大阪弁の2モーラの卑罵語は基本的にLHが多い。
「あほ」「ぼけ」「かす」「はげ」「ちび」「でぶ」などなど。
ちなみに「ばか」はHL。やはりこの語は大阪弁になじまない。

「ド畜生」はLHLLL。

「しょんべんたれ」はHHHHHL。
「しょんべんくさい」はHHHHHLL。





その2につづく。





2017年1月30日 (月)

『大阪弁ちゃらんぽらん』「ねちこい」を読んで その4

おかしいことばでは、「ねちこち」というのがある。これもネチネチより、もうひとつ粘着した感じのものだ。(p.138)


この語彙も知らないし、聞いたことがない。「ねちこい」は「ねちねち」の「ねち」に「ーこい」がついたものだろうが、「ねちこち」は「ねちこい」から派生したのだろうか。

なぜ「ち」になったのか。「ねちねち」と「ねちこい」の混淆語なんだろうか。
「ゴリラ+クジラ→ゴジラ」のようだが、語末の1モーラだけが混ざったということか。


「ねちこいに似たものに、ネソというのがありますが知ってますか」
と熊八中年はいった。
「知ってます。ムッツリした、口かずの少ない、おとなしい人のことでしょう」
「そうそう、しかも、タダのネズミではないという感じ。おとなしい人、というのは人畜無害でありますが、『ネソ』にはどこか一抹のニュアンス、あやしき影の部分がある。そこがねちこいとねそのちがうところですな。――ねちこいは、法にふれることはしませんが、ネソは、もしや、という臭みもある。たいがい犯罪者があげられると、近辺の人はびっくり仰天して、あんなおとなしい人が、とおどろくのが多い――これつまり、ネソがコソするというのである」(p.138)


長い引用になったが、これはここまで書かないと理解できないので。
コソというのは、人にかくれて淫靡な行為をなすことである(p.139)そうだ。

「ねそ」も「こそ」も、私は聞いたことがない。
その手の話をする大人が周りにたまたまいなかっただけなんだろうか。


ネソがコソをする、というのは、虫も殺さぬ無垢な処女のような娘さんが、いつのまにかぼてれんになったりすることを指す。(p.139)


ぼてれんは妊婦のこと。
擬態語からの派生ではあるが、あまりにストレートすぎる。


「しかしまあ今は、ネソもコソも地を払いました。天下晴れて白日のもと、ねちこく、ネトネト、これみよがしになってはりましたわ。今にして思うと、ネソもコソもかわいいもんでした」(p.139)


どおりで、「ねそ」も「こそ」も知らないはずである。
ついでながら、「ネトネト」は理解できるが、使わない。

昭和の大阪が、時代とともに変化したということか。
猥雑さがある街だが、少しずつ取り除かれているのかもしれない。

きれいになった京橋駅付近を見るたびに、そう思う。



「ねちこち」のアクセントはHLLLで、「ねちねち」と同じ。
「ネトネト」はHLLLより、LLLHの方がすっきりする。
先の2つはLLLHやと違和感あり。

「ねそ」も「こそ」もHL。

「ぼてれん」はLLHH。





この章終わり。



2017年1月19日 (木)

『大阪弁ちゃらんぽらん』「ねちこい」を読んで その3

議論をしていて、意見が違っても決して怒らず、冗長な口調で押し返す。堂々巡りでも倦まず、しぶとく食い下がる。 といった例がp.133に出ている。

これは私の語感ではねちこいではない。
ひつこさは出ているが、嫌味を言ってるわけではなさそうなので、粘着質感が少ない気がする。

粘着質が加わっていくと、「しつこい<ひつこい<ねちこい」になる気がする。
共通語形のしつこいより、大阪弁のひつこいの方が、ひつこいと思う。

「こういう人は、コッテ牛のようなものである。(p.133)」
コッテ牛という言葉を知らないんで調べたら、元気な牡牛のことだと。

「おせでもつけどもピリッとも動かぬ。(中略)咽喉もとへくらいついたら(中略)雷が鳴ろうが槍が降ろうが、決して放さない。(p.133)」が、コッテ牛の特徴か。

さっきの人は、ひつこいというよりはしぶとい。
ひつこいよりしぶといの方が、打たれ強さが加わる。また、プラス評価で使える。


 女のねちこいのは処理にこまるものである。
 私は、とくに同姓のワルクチはいいたかないのでありますが、姑、小姑、ねちこくいびってるのなぞは、男ではできにくいことである。(p.137)

ふむふむとは思うが、女の世界の裏側は見たことがない。
ドロドロやと噂では聞くが、実体験としてはない。

うちは姑によるいびりもなかったので、それは昼のワイドショーの再現ドラマでの世界だと思ってるぐらいの感覚。生で見たら、心の底から軽蔑できる自信がある。

われがわれがで、人を蹴落としたいがゆえにやるのか。暇やなあと思う。
それが快感になっていくから続けているのか。このド変態めっ。

でも、想像の範囲で続けるなら、男でもそんなのはいるような気がする。
木下ほうかさんの役どころを見てるとそういう気がしてきた。

「ねちこい女には、あたまのいいのは、あまりいない。(p.137)」とあるが、仕事はできるというのはおりそうな感じがする。
そして、男もそうだと思う。ねちこいやつは、総合的に見て頭が悪い。

男であっても女であっても、ねちこい嫉妬はただただみっともない。
嫉妬をしても、表に出さないというのが大人のたしなみである。



その4につづく。









2017年1月 1日 (日)

『大阪弁ちゃらんぽらん』「ねちこい」を読んで その2

さて、私が使う「ねちっこい」にはプラスの意味は皆無で、マイナスの意味しかない。
「粘り強い」「ひつこい」のプラスのニュアンスは「ねちっこい」ではすべて消える。

基本的にものには使わない。
同書にしばしば出てくる「ビッチクソ」(これは私は逆に「ビチクソ」)のような軟便には使えない。

動物を擬人化する性格でもないので、人間以外の生物にも使わない。
動物に使わないのは、私が動物の性格に興味がないから。

だから、動物を愛玩できる人なら、動物の負の行動の背後にどんな感情があるか読み取れるだろうから、使ってもおかしくはない。
よって、動物に使えるか否かは個人差があると思われる。

基本的には、「ひつこい」にねちねちしたくどさが加わった感じ。
「ひどく陰険で奸譎[注]な感じがする(p.132)」には激しく同意できる。

根にもって同じことを愚痴る、怒るタイプもねちっこい人ではあるが、私の中では優先順位は低い。
ねちっこいは、男と女が別れて後に、どちらかが関わろうとしている時に浮かびやすい。

そこは愛情と憎悪が渦巻く世界。ドロドロ感があるから、粘着質になるのか。
えん魔くんはカラッとしてるが。それはドロロンやった。

閑話休題。「よりを戻してくれ」も1回なら分からなくないが、繰り返されるとねちっこい。
「別れてくれ」にはねちっこさは感じない。

「いや、別れない」は、何度もそうであればねちっこさを感じる。
冷めきった態度であっても、良好な継続とは別の意図があって言ってる場合なら、ねちっこさを感じることがある。

まあ、そういう関係をややこしいと思うのは、言わずもがなである。





「ビチクソ」はLLLH。
「ビッチクソ」はLLLLH。





その3につづく。






[注]
奸譎(かんけつ(原文ママ)):よこしまで、心にいつわりが多いこと。



2016年12月31日 (土)

『大阪弁ちゃらんぽらん』「ねちこい」を読んで その1

「ねちこい」pp.129-139

私は「ねちっこい」であって、「ねちこい」ではない。
「ねちこい」の強調形として使っているつもりもない。

親(1946生)も「ねちっこい」と言うので、「ねつこい」の方がさらに古いのか。
まあ、促音が挿入されているんだから「ねちこい>ねちっこい」の変化の方が自然だろう。

『日葡辞書』(1603)には「ネツイヒト」が載ってるらしい(p.132)。
田辺氏は岡山弁の「ねつい」も根拠として、「ねつい>ねつこい>ねちこい」を推定している。

手元の『大辞林』にも「ねつい」「ねつこい」「ねちこい」は載っている。
「-こい」は「ひつこい」「めんこい(=可愛い)」「冷やこい」と同様の接辞か。p.131にも同様の指摘がある。

まず、ひっかかるのは、「ねつい>ねつこい」という接辞の変化。
どういう類推が働いて接辞が変わったのか、他の例がないと何とも言えない。

次に「ねつこい>ねちこい」という音韻変化。
「u>i」自体はありうることなんだが、「ねちねち」がいつごろ誕生したのかが気になる。

この推定はまんざらおかしな説ではないとは思っているが、慎重に考える必要がある。
なお、「ねちこい>ねちっこい」の変化には、何の違和感もない。




「ねちっこい」のアクセントは、HHHHL。
「ねちこい」はHHHL。




その2につづく。


2016年12月12日 (月)

『大阪弁ちゃらんぽらん』「いちびる」を読んで その2

おちょくる→いちびる→ほたえる(p.126)
この順番には、若干の抵抗がある。

「おちょくる」には愚弄のニュアンスがあるが、「いちびる」は調子乗ってる感じ。
そして、「ほたえる」はわめいているという叫喚の感じ。

だから、この3つを同一軸で比べることに違和感がある。
明らかに位相が違うと思うんだが。

「ほたえる」は、ただただばか騒ぎしている感が大きい。
なので、相手をからかうというのとはかなり違っている。

「いちびる」も「ほたえる」も、ふざけている感はあるが、両者は別物。
「いちびる」は口頭で挑発(p.125)、「ほたえる」は肉体・動作をともなう(p.123)は割と納得できる。

「ほたえる」は調子に乗ってる時もあるが、そうじゃなく騒いでる時にも使える。
また、必ずしも相手を挑発しているわけではなく、必ずしも愚弄しているわけでもない。

子どもが大声で騒いどったら、「ほたえるな」とは言うけど、「いちびるな」ではない。
そこにからかいがなければ、「いちびるな」ではない。

もちろん大人が大騒ぎしてても、「ほたえるな」。
かぼちゃの祭りは嫌いな人には「ほたえるな」と発したくなるかもしれない。

犬は喜び庭駆け回りやと、「ほたえるな」かも。
それは犬好きかどうかが関わってくるので、人それぞれかも。

さて、「いちびる」は「イチビリ」というように、連用形転成名詞になれる。(p.125)
それに対して、「オチョクリ」や「ホタエ」とは言えない。

これは「いきる(いきってる)」が「イキリ」にはなるが、「いきがる」は「イキガリ」にならないようなものか。もともとの語彙の属性か、そういう人が多いからそういう用法が生まれたのかはよく分からない。



「いちびる」のアクセントはHHHH。
「いちびり」はLLHL。

「おちょくる」も「ほたえる」もHHHH。
「いきる」はHHH。「いきってる」はHHHHH。「いきり」はLHL。




この章終わり。




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